Seiru
翠琉 立ち絵
CHARACTER No.002

翠琉

SEIRU

王立ヴィアベル学園 6年生。
春風のように軽やかな、貴公子。

BOOTH COMING SOON プロフィール

「君たち人間は本当に急ぐね。
花が咲くのを待つ時間すら、惜しいの?」

Profile
プロフィール
NAME翠琉(セイル) / Seiru
PEOPLEエルフ
YEAR6年生 —— リボンの色は、白。
AGE外見は19〜20歳ほど。実年齢は …… さて、どうだろうね?
IMPRESSION誰にでも愛想がよく、学園一顔が広い人気者。軽薄で、美しく、人当たりがいい。
RUMOR舞踏会では令嬢を口説き、授業では同級生を助け、街では店主と冗談を交わす。—— そのすべてを、同じ笑顔でこなすらしい。
AND...髪の隙間から見える耳が、彼の長い長い時間を物語る。ある3年生の温室に、勝手に入り込もうとしては牽制されている。
Short Stories
掌編
SS.01 雪解けを待たない花翠琉 & 雫峰

「雫峰くーん、遊びに来たよ」

「帰ってください」

温室の扉を開けた瞬間、返事が飛んできた。

翠琉は気にせず中へ入る。

「先輩に対して冷たくない?」

「招いていない人は客ではないので」

「なるほど。じゃあ不法侵入者か」

「自覚があるなら助かります」

雫峰は作業台に向かったまま、こちらを見ようともしない。
翠琉は慣れた様子で温室の中を歩いた。

外では春の陽射しが白い石畳を照らしているというのに、ここにはいつも少しだけ違う時間が流れている。

湿った土の匂い。
薬草の青い香り。
規則正しく並んだ鉢と、静かな水音。

「相変わらず落ち着くねえ、ここ」

「勝手にくつろがないでください」

「褒めてるんだよ~?」

「ありがとうございます。ではお帰りください」

「手強いなあ」

いつものやり取りをしながら、翠琉は棚の前で足を止めた。

銀色の細い葉。
淡い紫色の、小さな花。

他の植物に隠れるようにして、一輪だけ咲いている。

翠琉の目が、わずかに細くなった。

「……懐かしいな」

声から、ほんの少しだけ軽さが消えた。
雫峰が顔を上げる。

翠琉は葉には触れず、その前にしゃがみ込んだ。

「これ、どこで手に入れたの?」

「北部の薬草商から苗を譲ってもらいました。珍しいものですけど、先輩も知ってるんですね」

「まあね」

翠琉は花を眺めたまま答えた。

「昔は、別の名前で呼ばれてたんだよ」

そして、人の言葉ではない、短い音を口にした。
古く、柔らかな響き。
葉を揺らす風に紛れれば、そのまま消えてしまいそうな音だった。

「意味は?」

「雪解けを待たない花、だよ」

「ずいぶんせっかちな名前ですね」

「君たち人間ほどじゃないよ」

翠琉が笑う。
雫峰は手元の本を一冊めくった。

「今は《銀雪草》と呼ばれています」

「うん、知ってる」

「薬学書には、百五十年ほど前に王立植物院で命名されたとありますね」

「へえ。じゃあ百五十年前から、この子は銀雪草になったんだ」

その言い方が妙だった。
雫峰は翠琉を見る。

「気に入らないんですか?」

「別に?」

翠琉はいつもの笑顔を浮かべた。

「名前なんて、その時そこにいる人が好きに付ければいいでしょ」

「そうですね」

雫峰はあっさり頷いた。

「名前が変わっても、この植物の性質は変わりませんから」

翠琉が瞬きをする。

「春先に花をつける。寒さには強いけど、高温と過湿には弱い。根には微弱な毒性がある」

雫峰は本を閉じた。

「違う名前になっても、育て方まで変わるわけじゃないですし」

淡々と話す雫峰の言葉を聞いて、翠琉は小さく吹き出した。

「雫峰くんって、たまにすごく身も蓋もないこと言うよねえ」

「間違ってます?」

「ううん」

翠琉はもう一度、淡紫色の花を見る。

「そういうところ、けっこう好きだよ」

「どうも」

雫峰は興味がなさそうに作業へ戻った。
温室に、しばらく静かな時間が流れる。

翠琉は立ち上がると、隣の鉢へ手を伸ばした。

「……先輩」

「ん?」

「その植物には触らないでください。毒があります」

翠琉の手が止まる。

「心配してくれるの?」

「他の鉢を倒されたくないだけです」

「俺の命より鉢?」

「先輩なら、その程度の毒では死なないでしょう」

「信頼されてるなあ」

「はい。頑丈さは信頼してます」

「雫峰くん、今日も可愛いねえ」

「……帰ってください」

そう言いながら、雫峰はもう翠琉の方を見ていなかった。
けれど、温室の扉を指すこともしなかった。

SS.02 刻まれなかった名前翠琉 & 凌岈

放課後の運河沿いは、今日も人で賑わっていた。
白い石造りの広場では、新しく建てられた記念碑を囲んで、生徒たちが楽しそうに写真を撮っている。

その昔、王国を守るために戦った者たちを讃えるものらしい。

「へえ。立派なもの作ったねえ」

翠琉が足を止めた。
金色の文字で刻まれた碑文を、上から下までゆっくりと眺める。

『王国のために命を捧げた、勇敢なるすべての者へ――』

「すべての者、だって」

隣にいた凌岈が、翠琉を見る。

「何かおかしいか」

「いや?素敵な言葉だなと思って」

翠琉は笑った。
いつもと同じ、誰にでも向ける人当たりのいい笑顔だった。

「時間が経てば、ずいぶん綺麗に書けるものなんだね」

凌岈はもう一度、碑文へ目を向けた。

「載っていない名前があるのか」

翠琉の笑みが、ほんの一瞬だけ止まった。

「……どうだろうね」

「知っているんだろ」

「さあ?」

軽く肩をすくめる。
広場では、記念碑を背景に下級生たちが笑っていた。
春の日差しが水路に反射して、白い石畳を明るく照らしている。

翠琉はそんな光景を眺めながら、静かに言った。

「別に、書いてあることが嘘だとは言わないよ」

「なら何が気に入らない」

「嘘じゃなければ、本当になるのかなって思っただけ」

凌岈は黙った。
翠琉はまた笑う。

「やだなあ、お兄さん。そんな顔しないでよ。俺、王国に喧嘩売ってるみたいじゃない?」

「売る気があるなら止める」

「ないない。面倒くさいし」

「ならいい」

あっさりした返事だった。
翠琉が目を瞬く。

「……それだけ?」

「俺は百年前を知らない」

「うん」

「お前は知っている」

「まあね」

「なら、お前が忘れなければいいんじゃないか」

翠琉は何も言わなかった。
石碑の向こうでは、若い生徒たちが笑っている。

きっと彼らは、ここに刻まれなかったものを知らない。
知らないまま、この国の春を綺麗だと思って生きていく。

「君ってさあ」

ようやく翠琉が口を開く。

「もうちょっと気の利いた慰め方とか知らないの?」

「慰めてない」

「知ってるよ」

今度の笑みは、少しだけ違った。
翠琉は記念碑に背を向ける。

「帰ろっか。お腹へったし」

「さっき菓子を食っていただろ」

「長寿種は燃費が悪いんだよ」

「初めて聞いた」

「俺がいま作ったからねぇ」

凌岈はため息をついて歩き出した。