Ryoga
凌岈 立ち絵
CHARACTER No.003

凌岈

RYOGA

王立ヴィアベル学園 6年生。
白い石畳を静かに歩く、理知的な狼。

BOOTH COMING SOON プロフィール

「泣くなとは言わない。
だが、泣いた後に何をするかは決めておけ。」

Profile
プロフィール
NAME凌岈(りょうが) / Ryoga
PEOPLE獣人(人狼)
YEAR6年生 —— リボンの色は、白。
HOUSE王国の運河と港を守る、名門公爵家の長男。
IMPRESSION口数は少なく、正論は鋭い。冷たく聞こえるが、それは相手が次に動けるようにするための言葉。
RUMOR訓練場では最強格。下級生への指導は厳しいが的確。—— 感情が「耳」に出ることがあるらしいが、本人は隠しているつもり。
AND...妹がひとり。ある3年生の温室に出入りを許された、数少ない人物のひとり。
Short Stories
掌編
SS.01 三十分の約束凌岈 & 雫峰

日が落ちても、温室の灯りが消えていなかった。
学園の校舎から生徒の姿が減り始め、運河沿いの道にも夜の気配が降りている。

凌岈が温室の扉を開けると、雫峰は作業台に向かったまま振り返らなかった。

「こんばんは、凌岈さん」

「飯は?」

挨拶より先に飛んできた言葉に、雫峰が少しだけ手を止める。

「食べました」

凌岈は黙って机を見る。

薬瓶。
開いたままのノート。
切り分けられた薬草。
小さな鉢がいくつか。

食事らしいものは、どこにもない。

「食べてないな」

「……鋭いですね」

凌岈は持っていた紙袋を作業台の端に置く。

「食え」

「お腹、すいてないんで」

「倒れられると面倒だ」

雫峰が紙袋を覗く。
まだ温かいパンが二つ入っていた。

「……わざわざ買ってきたんですか?」

「パン屋は帰り道にある」

「ここの温室、寮とは反対方向ですよね」

凌岈が黙る。
雫峰は少しだけ口元を緩めた。

「凌岈さんって、過保護ですよね」

「お前は植物の管理は上手いが、自分の管理はできてない」

きっぱりとした口調に、雫峰は思わず吹き出した。

「あはは。否定できないな」

「昨日も寝るのが遅かっただろ」

「どうして知ってるんです?」

「朝、顔色が悪かった」

「よく見てますね」

凌岈からの返事はない。
雫峰は紙袋からパンを一つ取り出した。

「……いただきます」

「最初からそうしろ」

「お礼くらい言わせてくださいよ」

凌岈は返事をせず、温室を見回した。

窓際では、夜にしか花を開かない魔法植物が淡く光っている。
昼間とは違う青白い光が、夜に浮かんでいた。

「それか」

「うん。今夜咲くと思ってたんです」

雫峰も窓際へ目を向ける。

「開花直後にしか記録できない変化があるので、もう少し見ていたくて」

「だから飯を忘れたのか」

「忘れたわけじゃないですよ」

「後回しにした」

雫峰は少し笑ってから、諦めたようにパンを一口かじった。
凌岈は時計を見る。

「それが終わったら帰れ。学園も閉門になるぞ」

「あと一時間だけ」

「三十分」

「四十五分」

「三十分」

「四十分」

「三十分」

「……凌岈さん、昔からこういうところ変わらないですよね」

「お前も変わってない」

「僕?」

「何かに夢中になると、周りが見えなくなる」

雫峰は少し考える。

「そうかな」

「そうだ」

雫峰は小さく笑って、残りのパンを食べる。
それを確認してから、凌岈はようやく近くの椅子に腰を下ろした。

「……凌岈さんも待つんですか?」

「三十分だけな」

「僕、一人で帰れますよ」

凌岈は窓際の花を見たまま答えた。

「お前は三十分で終わらない」

雫峰が目を瞬く。

「信用ないなあ」

「実績がある」

「あはは」

温室に、雫峰の笑い声が小さく響いた。
それから二人はしばらく何も話さなかった。

凌岈は急かさず、雫峰も追い返さない。
夜の花がゆっくりと開いていくのを、二人で黙って眺める。

やがて雫峰が、残ったもう一つのパンに手を伸ばした。
凌岈は何も言わなかった。

ただ、それを見てから少しだけ椅子に深く腰掛けた。

SS.02 遠回りの道凌岈 & 翠琉

夕刻の大通りは、いつも以上に混み合っていた。

翌日に控えた王国の祝祭を前に、通りには色とりどりの旗が掲げられ、露店の準備をする人々の声が絶えない。

「賑やかだねえ」

隣を歩く翠琉が、楽しそうに笑う。

「明日はもっとすごいらしいよ。パレードに、演奏会に、夜は花火だって」

「そうか」

「反応薄いなあ。若者らしく楽しみにしたら?」

「人が多い」

「狼くんは人混みが苦手かな?」

「お前ほどじゃない」

翠琉の足が、一瞬だけ止まった。
凌岈はそのまま歩く。

「なんの話?」

「別に」

振り返りもしない。
翠琉は数歩遅れてから、また隣に並んだ。

「やだなあ。俺、人が大好きだよ?」

「知ってる」

「でしょう?」

「誰にでも笑う」

「社交的だと言ってほしいな」

「誰にでも同じ顔をする」

今度こそ、翠琉が黙った。
大通りの向こうでは、人間の子どもたちが旗を振って走っている。
明日の祭りを待ちきれないらしい。

翠琉はしばらくそれを見つめてから、小さく笑った。

「君ってさあ、余計なところまで見てるし、言わなくていいことまで言うよね」

「見えたことを言っただけだ」

「それ、女の子に嫌われるよ~?」

「別に困らない」

交差路に差しかかり、凌岈は突然右へ曲がった。
翠琉が首を傾げる。

「そっち、遠回りじゃない?」

「ああ」

「寮なら真っ直ぐだけど」

「わかってる」

その先は、運河沿いの細い道だった。
人通りは少なく、祭りの喧騒も少し遠くなる。
水面を渡る夕方の風に、翠琉の長い髪が揺れた。
数歩歩いてから、翠琉が横目で凌岈を見る。

「……もしかして俺に気を遣った?」

「人が多くて歩きにくいだけだ」

「ふうん」

翠琉は、こちらを見ようともしない凌岈の横顔を見て笑った。

「じゃあ、そういうことにしておいてあげる」

「好きにしろ」

しばらく、二人は黙って歩いた。
やがて翠琉が口を開く。

「ねえ、凌岈」

「なんだ」

「君ってさ、俺が本当に嫌がることは訊かないよね」

凌岈は少しだけ眉を寄せた。

「言いたければ、お前から言うだろ」

それだけだった。

励ましもしない。
理由も訊かない。
わかったような顔もしない。

翠琉は一度目を丸くして、それから、いつものように笑った。

「……そういうところ、ずるいよねえ」

「何がだ」

「教えない」

「なら訊かん」

「可愛げがない狼くんだねえ」

「お前に言われたくない」

春の夕暮れの中、二人の声だけが静かな運河に落ちていった。